まずは、EasyMesh導入の経緯について、株式会社バッファローの志村太郎氏(事業本部販売企画室室長)が概要を語ってくれた。
「現状、市場ではWi-Fi 6のシェアが確実に拡大しつつありますが、さらに昨年からの社会環境の変化により、テレワークでの自宅Wi-Fi環境の改善需要が増え、Wi-Fi中継機の需要が急拡大し、現在もその傾向が続いています」という。
そして、「テレワークの普及で、以前よりも広い住環境へと引っ越す人が増えてきたことで、中継機などのWi-Fiもすみずみまで届く、かつ手に取りやすい製品が求められるようになってきました。そこで今回、実現したのが弊社のWi-Fi 6対応ルーター、および中継機フルラインナップの『EasyMesh』対応です」とのことだ。
株式会社バッファロー事業本部販売企画室室長の志村太郎氏より詳しくは6月3日の発表内容(こちらの記事)も参照して欲しいが、標準化仕様の採用によって市場に相互接続可能な機器を増やし、結果的にそれがユーザーの選びやすさ、接続しやすさにつながることを目指した戦略と言える。
しかしながら、なぜ今、EasyMeshなのだろうか?
同社では、Wi-Fi 5対応製品として独自メッシュ技術を採用した製品を従来から販売している。これを継続するという選択肢も当然あったはずだ。
株式会社バッファローの中村智仁氏(事業本部コンシューママーケティング部長)は、この点について次のように語った。
「EasyMeshには、初期のR1と、その後継のR2という2つのリリースバージョンがあります。R1は、とりあえずメーカー間の相互接続が可能というもので、今回、弊社製品でも採用したR2は、より多くの機能が実装されています。R2の仕様を拝見して、これなら実用的で、お客様が購入してもメリットがある製品を提供できるとの判断ができたので、今回、フルラインナップでの導入を決めたのです」という。
「Wi-Fi EasyMesh」のR1、R2の機能比較しかし、従来の独自規格とEasyMeshの2つの規格が存在するのは悩ましい。メーカーによっては、EasyMeshではなく、自社で開発した独自規格を主軸として、市場で戦い続けるという選択肢もあっただろう。
この点について中村氏は、「まずは『世に広める』ことを優先しました」と語る。
株式会社バッファロー事業本部コンシューママーケティング部長の中村智仁氏「どのメーカーの製品を選ぶかはお客様次第です。弊社はこの点をとても重視しています。独自規格で選択肢の幅を狭めるのではなく、EasyMeshというオープンな規格の中で勝負することで、広い選択肢を持ったまま弊社製品を選んでもらえるように努力する。こうすることで、『メッシュ』という技術が特別な、限られた技術ではなくなることを目指しています」という。
これまでメーカー独自の特別な存在だった技術を標準規格として一般化する――。この図式は、かつてのある技術を思い起こさせる。
そう、「AOSS」と「WPS」の関係だ。
かつてバッファローは世界に先駆けてプッシュボタン式のWi-Fi自動設定技術「AOSS」を世に送り出した(2003年)。
これがきっかけとなり、後にWi-Fi Allianceは「WPS」というWi-Fi自動設定の標準仕様を策定することになったという経緯がある。そして、その後バッファローは、AOSSとWPSの両方の技術を自社製品に搭載することで、「どの製品ともつながる」という状況を作り、WPSを世に広めることに貢献したのだ。
今回、EasyMeshをフルラインナップで採用するということは、まさにAOSS/WPSの状況の再来とも言える。Wi-Fi市場を牽引するバッファローがEasyMeshを採用することで、ユーザーがメッシュ規格の違いを意識することなく、「家中すみずみでWi-Fiにつながる」という状況を作り出せるようにしたというわけだ。