ある平日の深夜、日付が変わったころのこと。金融サービス会社のIT部門で顧客向けWebサービスの運用責任者を務める田村のスマートフォンが鳴った。障害対応を担当する小島からの緊急連絡で、30分ほど前から契約者向けポータルにアクセスできない状態だという。
契約者向けポータルは、顧客がWeb上で契約内容を閲覧できるサービスのトップページにあたる。スマホでアクセスしてみると、確かに「Not Found」のメッセージが表示された。メンテナンスのお知らせを表示させるよう小島に指示した田村は、ノートPCを開き、ことの経緯を追い始めた。
最初の異常は、契約者向けポータルの応答を監視する「サービス監視」ツールからのアラートだ。23:30頃からWebサイトに接続できなくなっていた。問題はその原因だ。小島の報告では、サーバーやネットワーク機器を監視する「システム監視」ツールでも同じ頃、ファイアウオールの異常を検知していたという。
単純な機器故障であれば自動的にバックアップ機器が動作してサービスは継続されるはずだ。障害対応担当の小島はデータセンターの常駐スタッフに、ケーブル断線など遠隔監視できない部分を含めたラック内の目視確認を指示し、自身も現地に向かっているという。
契約者向けポータルが復旧したのは、停止から4時間近くたった午前3時過ぎのことだ。小島らの現地対応により、利用が少ない深夜のうちに復旧できたことに、田村はひとまず胸をなでおろした。だが、小島から電話で伝えられたサービス停止の原因は、田村に新たな難問を突き付けるものだった。
これは、ある金融サービス会社が顧客に提供する、一般に「契約者ポータル」などと呼ばれるオンラインサービスに起きたトラブルです。このサービスの本来の売りは、24時間365日、ネット上で契約者情報の確認や各種の変更手続きができる利便性です。それが突然使えなくなったことで、一部の契約者からは問い合わせや不安の声が寄せられました。また監督官庁である金融庁への対応も必要になるなど、金融サービス会社にとっても大きな痛手となりました。
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