──「ゲーミングスマホ」とは何なのかを教えてください。
今のところ、厳密に言葉の定義はされていないように思います。スマホ本体のスペックが高いことに加え、ゲーム用にハードウェアを特別仕様にチューニングしたり、ゲームに役立つ機能を搭載していたりするAndroidスマホを「ゲーミングスマホ(ゲーミングスマートフォン)」と呼ぶブランド・メーカーが多いですね。
──「ゲーミングスマホ」=「ゲームにしか使えないスマホ」だと勘違いしているケースもあるそうですね。
ゲーミングスマホという名前のせいか、ゲーミングスマホの見た目のせいかはわかりませんが、「ゲーム用途にしか使えないスマホ」と誤解している方を時折見かけます。ゲーム専用機として運用する方もいるとは思いますが、普段使うスマホとしても問題なく使えます。
──スマホでよく使う機能のひとつがカメラ機能です。ゲーミングスマホはカメラに力を入れていないかも? と思ってしまいますが、実際のところどうなんでしょう。
超広角カメラ、マクロ撮影用カメラを含めたトリプルカメラを搭載している機種も登場しており、普段使いも問題なくこなせます。
──代表的なゲーミングスマホは?
ASUSの「ROG Phone」シリーズ、ZTE傘下のNubia Technologyによる「REDMAGIC」シリーズ、Xiomi傘下のBlack Sharkがリリースしている「Black Shark」シリーズなどが代表的でしょう。このように、ゲーミングスマホの大半は海外のブランド・メーカーが販売しています。
──日本ブランド・メーカーはゲーミングスマホを発売していないのですか?
現状では日本のメーカーがゲーミングスマホと呼んでいる製品は見当たりません。しかし、ソニーの「Xperia」、シャープの「AQUOS」シリーズ、FCNTの「arrows」シリーズにおける一部のハイエンドスマホはゲーム向け機能を搭載しています。それらはゲーミングスマホのようなもの、と言っても差し支えないでしょう。
──話に挙がった、ゲーム向けのチューニングや機能とは具体的にどういったものでしょうか。
メーカーや機種によって異なります。
ゲームプレイ中はスマホの性能をフルに引き出したり、映像を調整して敵を見分けやすくできたり、本体の側面や背面にボタン・タッチパッドを設けたりと多岐にわたります。こうした特徴も機種のポイントなので、購入を検討する際はよく比べたいですね。
──ディスプレイ以外でゲームを操作できる機能はハードウェアチートに相当しますか?
詳しくはタイトルごとの規約を確認するしかないですが、FPSなどのシューティングゲームではハードウェアチートとして見なされることが多そうです。例外があるとすれば、RPGやレースゲームなどでしょうか。
──そうした機能を搭載したゲーミングスマホを、大会で使うことはできるのでしょうか。
大会によってはスマホの機種が指定されることがあるため、すべての大会で自分のスマホを使えるわけではありません。
使えるケースで言えば、私が「PUBG MOBILE」の世界大会に出場した際は「ゲーミングスマホを使いますが、そういった機能を使いません」と約束していました。
──スペックが高くてそういった専用の機能も備えているとなると、ゲーミングスマホの価格は高そうですね……。
高価な機種が大半ですね。ですが、ゲームを快適に遊ぶためのスペックは確保しつつ他の性能を控えめにするといった工夫により価格を抑えている製品もあります。
──どんなゲームにもゲーミングスマホは向いているのでしょうか。
向いているとはいえますが、重要性はジャンルによって異なります。FPS・TPSなど一瞬で勝敗が決するゲームジャンルでは、ゲーミングスマホのスペックの高さによる安定した動作や専用機能の魅力が存分に発揮できます。
一方で、カードゲームなどの瞬発力を必要とするシーンが少ないジャンルでは、ゲーミングスマホを使う理由は少し薄れそうです。それでも、タッチサンプリングレート(※詳細は後述)の高さによる恩恵は受けられるはずなので、無意味ではないです。
──ゲーミングスマホとiPhoneを比べると、ゲームに向いているのはどちらでしょうか。
私はiPhoneも使っていますが、排熱・冷却性能周りに不安があります。しばらくゲームをしていると熱でタップの反応が悪くなるといった事態がちょくちょく起こります。そういった1タップのミスはFPSなどにおいて致命的なので、ゲームをするならゲーミングスマホのほうが向いていますね。
──今時のスマホゲーム、たとえばFPS・TPSを快適に遊ぶには、SoC(※)とRAMの性能はどのくらい必要でしょうか。
私の体感では、SoCは「Snapdragon 865」以上、RAMは「8GB」くらいを搭載した機種であれば、今時のスマホゲームは快適に遊べます。一昨年あたりのゲーミングスマホがこのくらいのスペックだったので、性能がさらに向上してた現行モデルではSoCとRAMの性能をそこまで気にしなくてよさそうに思えます。
※SoC(System on a Chip):CPUやGPUなどシステムの動作に必要なパーツや機能をまとめて載せた半導体チップ。ゲーミングスマホではクアルコム製の「Snapdragon」がよく採用されている。
──2022年1月現在で発売しているAndroidスマホで最もハイスペックな組み合わせは、「REDMAGIC 6S Pro」や「ROG Phone 5s」の、SoC「Snapdragon 888+」+RAM「16GB」かと思います。SoC「Snapdragon 865」+RAM「8GB」のスマホと比べて、遊び心地にどの程度の差が生まれるでしょうか。
ゲームを含めた処理の重い複数のアプリ(配信アプリなど)を同時に使うとき、SoCやRAMの性能が高いと動作がより安定しやすく感じますね。機材トラブルの起こりづらさは安心につながり、大会でも心置きなく戦えるようになります。
──高性能なSoCを積んでいると発熱しやすそうなのが気になります。
熱がこもるとゲームの動作が安定せずカクつきがちになり、しまいには強制終了してしまうこともあります。そのためか、ゲーミングスマホのほとんどは冷却性能を重視しています。ゲームプレイ時の発熱対策がしっかりしていることが、ゲーミングスマホの大きな特徴の一つでしょう。
──冷却方式はどれも同じですか?
アクセサリーとして空冷ファンを用意している機種から、スマホに空冷ファンや液体冷却システムを内蔵しているものまで、さまざまな方法で発熱問題に対処しています。
──発熱問題が緩和・解消されると、ゲームだけでなくスマホにも良い影響がありそうですね。
優れた冷却システムによってゲーミングスマホの温度の上がりすぎを抑える、つまり健全な状態を保つことにつながり、長寿命化も図れるのではないでしょうか。私の場合、2019年に買ったゲーミングスマホを今でもサブで使うことがありますが、パフォーマンスの低下はあまり感じません。
──冷却方式を駆動させるのにもバッテリーを食いそうですが、バッテリー容量や稼働時間についてはいかがでしょうか。
単純な話ですが、やはりバッテリー容量は多ければ多いほうが良いですね。
高画質でプレイしながら配信もしている私の状態だと、だいたい1時間あたりで2000mAh近く消費している気がします。ゲーミングスマホは4000mAhくらいは積んでいるので、2時間以上はプレイできますね。配信をしなければさらに稼働時間は延びるため、長時間のプレイにも耐えられます。
──ゲーミングスマホはディスプレイが高精細であるのは共通していると思いますが、ディスプレイでそれ以外にチェックしておきたい項目はありますか。
「リフレッシュレート」の性能をチェックしておきましょう。
リフレッシュレートとは1秒あたりの画面更新回数のことで、単位はHz。大雑把に言えば、この数値が大きいほど動きが滑らかに見えます。スマホのリフレッシュレートは「60Hz」が多く、ゲーミングスマホだと「120Hz」以上はあります。
──ゲーミングモニターと同じく、スマホもリフレッシュレートが大切なんですね。スマホゲームの1秒あたりの映像処理回数、「フレームレート(単位はfps)」はいかがでしょうか。
フレームレートを高く設定できるスマホゲームがいくつも登場していますね。リフレッシュレートの高いゲーミングスマホであれば、そうした高フレームレート対応タイトルの滑らかさを実感しやすくなります。
──リッチなゲームほど効果が出ると。ディスプレイでたまに聞く「タッチサンプリングレート」「タッチ遅延(タッチ反応速度)」についてはいかがでしょうか。
タッチサンプリングレートとタッチ遅延は、非ゲーミングスマホとの違いを体感しづらいかもしれません。
タッチサンプリングレートは、ディスプレイに指が触れたことを認識する頻度を指します。単位はHzで、数値が高いほど指が触れたかどうかを高頻度でチェックしてくれるようなもの、と言えばわかりやすいかと思います。
タッチサンプリングレートが高いほど、スワイプしている途中で判定されなくなったり、タップが認識されなかったりといった事態を防ぎやすくなります。
──普通のスマホとゲーミングスマホでは、タッチサンプリングレートの数値にどのくらいの開きがありますか?
ゲーミングスマホのなかには、マルチタッチ時において最大720Hzを謳う機種もあります。一方、非ゲーミングスマホだとタッチサンプリングレートを公表している機種を見かけないものの、こんなに高い数値は出ないはずです。
ただ、ゲーミングスマホのタッチサンプリングレートはオーバースペック気味で、この数値の高さを実感できる方は非常に限られそうだと感じます。
──タッチ遅延についても教えてください。
タッチ遅延とはタッチしてからスマホが反応するまでの時間を指し、「ms(ミリ秒)」で表します。「ROG Phone 5s」が24.3ms、「Black Shark 4」は8.3msと公表していますが、数値を公表していないゲーミングスマホもあります。数値に差があるように見えますが、先に話した通り体感での違いはわかりづらいと思います。
──タッチサンプリングレートとタッチ遅延はそこまで厳密にチェックしなくても良さそうですね。
──代表的なゲーミングスマホの特徴について伺いたいです。まず、「ROG Phone」シリーズの特徴を教えてください。
「ROG Phone」シリーズはとにかく性能を追求しているのが特徴で、ディスプレイサイズは大きく、バッテリー容量も多い。スマホで一番性能の良いものがほしい方にオススメです。
USB Type-Cの外部接続端子がスマホ本体の下部ではなく側面にあるのも良い点です。
──接続端子が側面に配置されていると、どういったメリットがあるのでしょうか。
接続端子が下部にあるスマホを使ってスマホを横に向けるゲーム、たとえばFPSをプレイすると、接続端子を手でふさいでしまいます。接続端子は充電機器やイヤホン・キャプチャーボードなどとつなぐため、そうした機材を接続しながらプレイするのは難しくなります。
とくに配信者さんはスマホとつなぐ機材が多くなりがちなので、接続端子の配置が工夫されている「ROG Phone」シリーズを導入すると、快適に配信しながらプレイできるようになります。
──弱点などはありますか。
ゲーミングスマホのなかでも重く、「ROG Phone 5s」だと238gです。また、値段が張るのもネックに思うかもしれません。価格は「ROG Phone 5s」のRAM16GBモデルで約12万円、RAM12GBモデルでも約10万円するので、気軽には買いづらいとは思います。
──「REDMAGIC」シリーズは日本でなじみが薄い気がします。
日本で発売されはじめたのが最近なので、「REDMAGIC」シリーズの知名度はまだ低そうです。
製品の特徴としては、ゲーミングスマホ単体での冷却性能に注力していることが挙げられます。ほかのゲーミングスマホでは専用ファンを用意していますが、取り付けると重くなりますし、持ちにくくなります。
ゲーミングスマホ単体でシンプルに運用するなら「REDMAGIC」シリーズは良い選択肢です。
──性能も高そうですね。
「ROG Phone 5s」と「REDMAGIC 6S PRO」で比較するとストレージ容量やバッテリー容量では一歩譲りますが、ほかは遜色ありません。その分、と言うべきなのかはわかりませんが、価格はやや抑えられています(RAM16GBモデルで約10万円、RAM12GBモデルで約8万円)。安さを求めるならこちらを選びたいです。
──「Black Shark」シリーズはいかがでしょう。
「Black Shark」シリーズは、日本では今のところ「Black Shark 4」のみ購入できる状態ですので、「Black Shark 4」についてお話します。ゲーミングスマホをより多くの方に届けたいコンセプトで発売され、約6万円とリーズナブルな価格に抑えられています。
──ほかの2機種と比べるとだいぶ安いですね。性能面で差があるということでしょうか?
SoCが「Snapdragon 870」、ストレージは128GB、RAMは8GBと、比較的高い性能ではあるものの、ほかの2機種と比べると物足りなく見えます。しかしリフレッシュレートは144Hzと高く、冷却方式は水冷式を採用するなど、重要なパーツにはこだわりが見受けられます。
また、ゲームとは関係のない、カメラ性能も控えめな仕様にしたりと、スペックにメリハリをつけて価格を抑えています。先に話した通り、このくらいの性能があればゲームプレイで不満が起こることはないので、コスパ重視ではじめてゲーミングスマホを体験したい方におすすめの機種です。