• ブログ
  • 根拠をもって指導…鹿児島大附属...
根拠をもって指導…鹿児島大附属小「Pプラス ジュニア」で可視化された取組みの結果

根拠をもって指導…鹿児島大附属小「Pプラス ジュニア」で可視化された取組みの結果

 鹿児島大学教育学部附属小学校では、GIGAスクール構想にともない2021年度より、児童1人に1台ずつのタブレット端末を配布し、クラウドツールとあわせて活用している。児童は、家庭学習では自分なりに考えを深め、授業では他の児童の多様な考えに触れることで、連続性・発展性のある学びに繋げている。学校と家庭との境目のない学習によってどのような力を育もうとしているのか、そして、ICTの活用によって、どのような授業のあり方を目指しているのか。同校の取組みをもとに、これからの時代を生きる子供たちに必要な「情報活用能力」について考える。

根拠をもって指導…鹿児島大附属小「Pプラス ジュニア」で可視化された取組みの結果

家庭学習と授業の接続による気付き

 見学したのは、三宅倖平先生が担当する6年生の算数。立方体の体積の求め方について学ぶ授業だ。児童は、前日、授業支援ツールを通じて三宅先生から送られてきた家庭学習用の問題に取り組み、解き方を書き込んだ解答を返信したうえで授業に臨む。三宅先生は、授業の前に児童の答えから理解度や疑問点を把握し、当日の授業を進めていく。 授業は家庭学習用の問題の確認からスタートした。タブレット端末に投稿された全員の解き方を見た児童は、たどり着いた答えは同じでも、求め方が人によって異なることに気が付く。なぜこんな解き方が可能なのだろうか? この解き方は正しいのだろうか? タブレット端末を見て、自分の考えと異なる考えをもった相手を探し、話しあいを始める。新たな解き方が見つかり、クラス全員で確認するたびに、児童から歓声と「他にも解き方がある!」と声があがる。1つの問題をみんなで考えることでたくさんの解き方が浮かび上がり、児童は、そのひとつひとつについて「なぜこのような式になったのだろうか」と考えた。

他者との「ズレ」の気付きで深まる学び

 家庭学習と授業を境目なく接続した学びの目的について、三宅先生は「児童が個別に考えたことを土台に、授業ではもっとも大切なことを話しあいの中で焦点化させるため」と説明する。 「話しあいをさせる際に私が留意しているのは、児童に、自分の考えと他者の考えとの『ズレ』に気付かせることです。同じ立方体の体積の求め方でも、自分は気が付かなかった解き方がある。この考えの『ズレ』を確認しやすくするために、ICTを使った家庭学習に取り組ませています」とも語る。 家庭学習では自分ひとりで考え、授業はみんなとの話しあいを中心にした時間とすることで「ズレ」を見つけやすくする。このような授業の流れに至るまでには次のような試行錯誤があったと三宅先生は振り返る。 「以前は、タブレット端末を使って家庭学習をする際に、ずっと児童同士の通信を許可していました。わからないときに友達にすぐに相談できるというメリットはありましたが、一方で、同じような解き方でみんなが納得してしまう状態になったのです。ある児童は『わからないときにすぐに他の人の解き方を参考にできるのは良いけれど、わかった気になって、頭の中でさっと流れちゃう感じがしてしまう』と言いました。そこで、家庭学習に関しては、児童間で自由に通信を行うことを基本としながらも通信機能を使うのかどうかについては、子供が判断できるようにする等の工夫を行いました。

ICTを活用し、磨きあい高めあう学びを促進

 では、三宅先生はなぜ「ズレ」の発見を重視するのか。それは学校教育目標「夢や目標をもち、共にみがき高めあう子どもの育成」を授業の中で実現するためだ。三宅先生は次のように語る。 「あえて乱暴な言い方をすると、Society 5.0社会では立方体の体積を求められるようになったかどうかによって、人の生き方が大きく変わることはないでしょう。なぜなら、立体の体積を素早く求めることは機械がやってくれ、人が行うことがほとんどなくなると考えられるからです。しかし、自分の考えを相手にわかりやすく説明し、他者の考えを聞いたり、取り入れたりしながら、さらに新しい考えを創り出す力が身に付いているかどうかによって、人の生き方は大きく変わると考えます。なぜなら、こうした営みは、機械に不得意なことであり、機械と共存していく人間にますます求められる力だと考えるからです。学校教育目標にある『共にみがき高めあう』を実現するために、各教科等の授業で何ができるのかを深く考えることが私たち教師には求められていると思います」 考えの「ズレ」に注目し、磨きあい、高めあう学びは、ICTの活用によって促進が可能だ。児童は、タブレット端末を通してクラスの33人の考え方がすぐに確認でき、自分が話を聞くべき相手を判断することができる。33人の解答は、自信がある場合は黄色、自信がない場合は白色と児童自ら色分けしており、他者の意見を聞く中で自分の解答に自信がもてた場合は色を変更することもできる。 「授業で児童に、『どうしてこの解答になったの?』等と尋ねると、『〇〇君の考えを聞いたから』と答えることがよくあります。そんなとき、私は『そうか!〇〇君の考えを聞いたから考えが深まったんだね』と言葉にして、他の人の考えを聞くことの価値を児童が確認できるような関わり方を意識しています。学びあうことの価値を実感すれば、児童たちの話しあいはますます活性化しますし、そのときに、学びあいをスムーズに進められるICTの価値を子供自身が実感すると考えます」と三宅先生は語る。

ICTは授業改善のための一手段

 また、ICT環境の整備が急速に進み、「ICTの活用のしかた」に教師の関心が向けられる中、鹿児島大附属小では、ICT活用の目的は「各教科等で育む資質・能力を育成したり、情報活用能力を育成したりするための学習活動を一層充実させること」であり、ICTは授業改善のための一手段であることを校内で再確認したという。

情報活用能力は、現代を納得しながら生きるための力

 新しい学習指導要領では、情報活用能力(情報モラルを含む)は、言語能力、問題発見・解決能力等と並び、学習の基盤となる資質・能力として位置付けられている。三宅先生は、情報活用能力を「多様な人間が共に納得しながら生きていくために有効に働く能力」だと考えるという。これからの社会はますます予測困難な社会になっていくが、それでも社会をつくるのは人間であることは変わらない。多様な人間が共に納得しながらより良い社会をつくる当事者として、これからの児童・生徒にはさまざまな人・場所からさまざまな情報を集め、分析し、自分の考えを形成し、周囲に伝えていく力が求められるからだ。 情報活用能力について、三宅先生は次のような例をあげてくれた。「そうした力を育む実体験は、小学生も可能です。たとえば、遠足に行って何をして遊ぶのかを決めるとき、一部の子供の声だけで決めるのではなく、タブレット端末でチャットを通して全員に意見を聞くことで、多くの人の考えを取り入れ、みんなが納得した遊びを選択できるようになります。情報活用能力を発揮することで、自他共に納得しながらより良い学校・学級になることを児童が実感できる場面はいくつもあると思います」

「Pプラス ジュニア」受検で可視化された取組みの効果

 各学級やクラブ活動単位でチャットを立ち上げ、児童同士がやりとりをする等、児童の要望をくみ取りながらさまざまな場面でのICT利用を進める同校は、2021年度10月、「情報活用力」を測定するデジタル・情報活用検定「Pプラス ジュニア」を初めて受検した。「Pプラス ジュニア」は、コンピューティング(プログラミング)、情報モラル・セキュリティ、情報デザイン(情報活用)の3領域の到達レベルを診断する。その結果、同校はコンピューティング領域において、特に「手順の組み立て」「条件分岐」といった分野の力が全国平均と比べて秀でていることが明らかになった。同校では、月に数回、朝の活動「ロジックタイム」を設定し、全学年の児童がパズルやタブレット端末を使いながらプログラミングを体験する機会をつくってきたが、「Pプラス ジュニア」の受検は、そうした活動の成果を検証する初めての機会にもなったという。 「Pプラス ジュニア」の児童用結果帳票は、各領域の受検ごとに確認できる。領域ごとの到達度は金銀銅のメダル方式で表示。さらに、各領域内の項目別の成績を棒グラフで示し、どこができなかったかひと目でわかるようになっており、児童自身で結果をもとに振り返ることができる。 教師用診断結果では、学年、クラス別の結果、各児童の結果について、領域別、領域内の出題項目別の評価を表示。学校、学年、クラス別等の全体の施策・指導による成果確認に活用できる。また、児童別の成績の詳細がわかるため、個別にできたところ・できなかったところについて細かなフィードバックに活用可能だ。 「Pプラス ジュニア」のメリットについて、三宅先生は「取組みの結果が可視化されることで、根拠をもって指導できるようになり、新しい取組みの提案・検討もしやすくなります。ICTをこれから推進していこうとする学校において、『Pプラス ジュニア』のような検定は、ICT推進の指針となると思います」と語った。デジタル・情報活用検定「Pプラス」の詳細はこちら