ワコム主催の「コネクテッド・インク2021」。3DCGの分野におけるVR活用法も語られた
フィギュア原型師・3Dモデラーを招いた2日目(17日)のセッションで、ワコムは3DCGフィギュアモデリングにおけるVR活用方法と、開発中の「Wacom VR Pen」(仮名)の可能性について取り上げました。
セッションにゲスト出演したのは、ともにイクリエに所属するフィギュア原型師・3Dモデラーの2人。曽我菜月氏は美少女などスケールフィギュアの原型を、また松浦元樹氏は可動フィギュア、デフォルメフィギュア、ジュエリー原型などを3Dソフトで制作していると自己紹介します。
ところでフィギュアの原型って、どのように制作されるのでしょう? 松浦氏は順序を追って、3Dモデリングによる業務フローを紹介していきました。
まず、クライアントから手渡される1枚絵を元に素体を制作。次にポージングを決めたところで「監修」が入ります。
このあとも、アクセサリーのラフモデリングのあとに「監修」、細部の作り込みのあとに「監修」と「版元監修」。そこで仮出力をして、初めて3Dデータが“実物”になるわけです。曽我氏は「2次元キャラクターを3次元の世界にお招きする」などと表現していました。
そして、クライアントの「監修」でOKが出たら、量産できるようパーツごとに分割して本出力、磨き。
3Dプリンターで出力し切れなかったディテールは、この段階で加えることもあるそう。「監修」「版元監修」を経て、ついに原型が完成。これを元に型取り、シリコンで複製、納品という過程を踏んでいくと説明します。
そんな2人は今回、事前にVRを活用した3Dモデリングを体験しました。曽我氏は「現実世界ではない空間に線を引く、という行為が初めてでとても新鮮に感じました」、松浦氏は「全身を動かしながら描いていくのは楽しかったです」と素直な感想を口にします。
MCを務めたワコムの担当者は「3Dモデラーのかたは感覚が鋭い。初めて使うツールでも、使い方を覚えた瞬間からどんどん作り込んでいく」と驚きを隠せない様子でした。
PCのディスプレイで3Dモデリングしていく従来の方法とは、どこが違うのでしょうか。
曽我氏は「VR空間は、空間把握がしやすいのがメリットですね。キャラクターの長い髪の毛やマントがなびく、そうした表現がやりやすくなるのでは」と表現力の向上に期待を寄せます。
PCのディスプレイ上ではパース(遠近法)を踏まえた表示がされるものの、やはり実物とは何かが違うそう。「現実世界と画面で見ている世界をすり合わせる作業が、いつも悩ましいんです。データで見ていたものを出力してみたら、思っていたものと違う、なんてことも多くて。はじめからVR空間で造形していけば、そうした違和感もなくせるのではないでしょうか」とコメント。
これには松浦氏も「自分も同じく経験則でやっています。VR空間で造形できれば、このまま出力しても違和感がないか、すぐにその場で分かるし、クライアントにもVR空間で見てもらえるでしょう。効率がよくなりそうです」と話しました。
2人はワコムが開発中のWacom VR Penも事前に体験したそうで、ファーストインプレッションについて「コントローラが小さくて軽くて持ちやすかった」「ポインターが狙ったところに出てくれて、ストレスなく描けました」と感想を述べました。3Dモデラーは1日中、何時間もペンを手に持ち絵を描く職業。市販のペンと変わらない軽さのVRコントローラだったら、業界の人間に歓迎されそうです。
ユニークなことに、Wacom VR PenではVR空間でタブレットを使えるモードも用意しています。これについては「よりイラストに寄った作品も描けそう」「VR空間に別の絵を貼って、2Dの絵を組み合わせた新たな作品も作れるのでは」などのアイデアが出たほか、曽我氏は「無限に続くVR空間ですが、そこに普段見慣れている“板”が置いてあるだけで、なんだか安心感がありました」と笑顔で話していました。
今後、ワコムではクリエイターのフィードバックを開発に活かしながら、Wacom VR Penの製品化を進めていくと説明しています。