米倉社長の提示した「あなた専用の人工衛星があったら、どう使う?」という課題に対し、多数の投稿をいただきました。紙面掲載分を含めて、当コーナーでその一部を紹介します。
■現代のゴールドラッシュ
曽田 昌弘(会社員、41歳)
もし人工衛星をドローンのように自分で操縦できるとしたら、仮想現実(VR)よりももっと現実に近い、宇宙遊泳の疑似体験ができるのではないか。人工衛星に取り付けた全方位カメラの映像を体験者は視覚に反映させ、さらに自分の体の動きを人工衛星の操作と連動させる。自分専用の人工衛星を得ることができるなら、是非実現してみたい。宇宙空間には、ロケットや人工衛星の残骸、岩石といった多くのスペースデブリ(宇宙ごみ)が浮遊していると聞く。リモート宇宙遊泳を体験しながら人工衛星に設置したアームを動かして、これらを拾うことはできないか。遊びながら、宇宙の掃除をするイメージだ。集めたデブリは一カ所に集めて地球で回収する。その中からレアメタルや貴金属が得られれば、まさに19世紀の米国のゴールドラッシュを、現代の宇宙で再現することができるかもしれない。宇宙のトレジャーハンターには、現代人が忘れたロマンがあるように思う。
■宇宙で太陽光発電
南部 優実(慶応義塾湘南藤沢高等部2年、16歳)
私は人工衛星で太陽光発電を実現し、再生可能エネルギーが普及していない地域へ送電したい。エネルギー問題は世界の関心を集める重要課題であり、脱炭素へのエネルギー転換が求められている。鍵を握るのが再生可能エネルギーの推進だ。私は宇宙での太陽光発電システム(SSPS)に強い関心を持っている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のチームが実験を進めているが、多くの技術的課題が残されており実現は遠い。送電に伴う電磁波の影響や、宇宙ゴミの問題もある。しかしSSPSが早期に実現し、普及が進み、コストを抑えられたら、再生可能エネルギーへの転換が今より加速するのではないか。太陽光発電などの運用・保守を手掛けるスマートエナジーの方にお話を伺ったところ、SSPSが普及すれば「エネルギーの常識が大きく変わる」とおっしゃっていた。宇宙での太陽光発電を推進することが、多分野で新たな可能性を開くと期待している。
■リアルタイム地球儀
伊藤 祥吾 (会社員、31歳)
すべての人にとって、世界をもっと身近なものにしたい。そのために「リアルタイム地球儀」をつくり、人工衛星と連動させて「世界の今の見える化」を提案する。この地球儀を回すと、世界のあらゆる地点の今を映像で見ることができ、過去の映像との比較もできる。例えば時差や季節の違い、地球温暖化の進行度合いなどといったものを、自分専用の地球儀において観察することで、多くのリアルな仮想体験を積める。教育現場では子供たちの問題意識を養うのに役立ちそうだ。大人にとっては、特定のスポットを定点観測することを通じて、世界中の社会課題を自分ごととして捉えるきっかけにできるのではないか。また、身体的なハンディキャップなどの理由で移動が難しい人に対しては、本当の旅をしているかのような感覚を提供できる。世界中の今を見える化することで、人々の視野を広げる。人工衛星が夢や希望のあふれる社会を想像するツールになる。
【以上が紙面掲載のアイデア】
■VRと人工衛星が見せる新たな景色
岡崎 海翔(関東学院六浦高校1年、15歳)
自分専用の人工衛星があったら、衛星からの宇宙のリアルタイム映像を使ったSF映画のようなゲームがやりたい。宇宙を舞台にしたゲームはたくさんあるが、しょせん人が想像で描いたものであって、宇宙の広がりに限界があったり、映像にリアリティーがなかったりするなど、臨場感に欠けるところがある。そこで、VR(仮想現実)と衛星からの宇宙のリアルタイム映像を組み合わせるのはどうだろう。衛星からの宇宙の映像をVRヘッドセットに映し出すことで、宇宙空間をリアルに体感することができる。また、人が作り出したものではなく本物の宇宙の映像なので、衛星を移動させれば広さに限界もなく、どこまでも広がる宇宙の世界を体感することができる。さらに、衛星の映像は天体観測にも使えるため、教育現場でも役立つことができる。VRと衛星は私たちに新たな景色を見せてくれるだろう。
■いつでも太陽光発電
塩野 絆永(海陽学園海陽中等教育学校1年、13歳)
私専用の人工衛星は、太陽光を100%キャッチして発電する「宇宙発電所」にしたい。二酸化炭素が一切出ない太陽光発電は地球温暖化対策に有効で、最近では家庭の屋根などに設置している例も増えている。しかし、雨の多い地域ではあまり役に立たないし、夜間は発電できないといった問題点がある。人工衛星を使って宇宙で太陽光発電をすれば、夜の時間帯でも電気がつくれるし、天候の心配もいらない。設置場所は宇宙だから、広い敷地を用意する必要もない。私たちが地上で浴びている日光はオゾン層に吸収されているため100%ではないが、オゾン層の影響を受けない宇宙空間なら100%の日光で発電できる利点もある。安定した質のいい電力をつくることができるうえ、発電効率もとてつもなく高まるのではないだろうか。この電気を地球に送ることができれば化石燃料の過剰な消費を抑えることができ、地球温暖化を防止する有効な対策になると考える。
■宇宙視点の世界旅行
大野 真也(大阪市立大学商学部3年、21歳)
自分専用の人工衛星を持つようになったら、人々は地上からの視点だけでなく、宇宙からの視点を得ることができる。宇宙からの視点を生かしたアイデアとして、「宇宙視点の世界旅行」を提案する。新型コロナウイルスの影響により、人々は移動が制限され、気軽に旅行することもできなくなった。そこで登場したのが、オンラインで日本や世界の各地を巡るオンラインツアーである。オンラインツアーは、コロナ禍においても気軽に旅行気分を味わうことができ、既に人気を集めている。その一方で、オンラインだからこそできる経験は少なく、実際の旅行の代替として選ばれている側面もある。ここに宇宙視点という要素を加えると、宇宙から世界各地を見るオンラインツアーという形になる。宇宙視点の世界一周旅行は、自宅から気軽に見ることが出来ながら、実際にその場所を訪れる旅行では絶対に体験することができない価値を提供することができると考えている。
■食を宇宙から支える
福山 雪花(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、20歳)
人工衛星の強みである気象観測を、自分が郊外で育てる野菜や果物の収穫に利用してみたい。宇宙から送られてくる情報をもとにベストな収穫時期を予測し、収穫後は自宅に届くようにしたい。人工衛星から届く気象情報は災害時だけでなく、私の食にまで関わることができる。日ごろ、スーパーや青果店で買う野菜や果物はもちろん品質に問題はない。ただ、市場を通してから入ってくることと、季節とぴったりあっていない野菜や果物が並んでいることがあり、必ずしもベストなタイミングとは限らない。おいしいものをおいしいうちに自分の口に入れるためには、宇宙からのサポートが必要不可欠だ。近年、地球温暖化の影響で世界各地の天候が不安定になり、生鮮食品の値上げが続き家計を悩ませている。さらにコロナ禍で自分の健康は自分で守る必要性も挙げられるようになってきた。その両方をカバーしてくれる人工衛星を私専用として使えるとしたら夢のような話だ。
■気象調整マシン
羽室 栞(会社員、23歳)
「天気調整マシン」として使ってみたい。天気調整マシンとは、ドラえもんに登場する気象を操る人工衛星だ。どこでも好きな場所の天気を自由自在に変えることができる。人工的に雨を降らせる技術は早い段階から研究が進んでいるという。「シーディング」と呼ばれ、雨雲の中に雨粒の種になるような物質をまき、雲を雨に変えてしまう手法があるそうだ。あらかじめ雲に種をまき、雨を降らせて雲を消してしまえば「晴れ」を作り出すこともできるという。実際に2008年の北京オリンピックの開会式で、この方法が使用されたそうだ。専用の調整マシンがあれば、自分の上空だけ好きな時に天気を操ることができる。晴れを願う大切なイベントの日や、夕方ひと雨降ると涼しくなる猛暑日。湿気で症状が軽くなる花粉症の時期など、健康対策としても活用できそうだ。夢のようなマシンが近い将来実用化され、個人でも購入できる価格で販売される日が来ることを願う。
■星を間近に眺める
西村 雄一郎(会社員、48歳)
幼少の頃から星空を見るのが好きだったので、星を見ることに使いたい。様々なことが進化した現代社会においても自分で星を見るには、夜に望遠鏡で見るしか方法がない。望遠鏡の性能が向上し、星を見る方法も100年前と比較したら進化はしている。しかし、100年前の電話が現代の携帯電話に進化していることに比べたら、星を見る手段の進化にはまだまだ大きな可能性が残されている。自分専用の人工衛星から星を見ることは、個人の電話が固定電話から携帯電話に変わることと同じ位大きな進化だ。地上からの望遠鏡では決してできない、例えば、ぶつかりそうになる流星の様子を間近で見たりすることが可能になるだろう。様々な角度から、無限に広がる宇宙の星空を眺めることができたらどんなに楽しいだろうか。そして、今は無理でも将来に向かって大きな夢を持つことこそ、私たちの夢を実現するために欠かせないエッセンスだと思う。
■好きな世界遺産の今をみたい!
上原 康滋(無職、76歳)
「あなた専用の人工衛星があったら」という夢のような話で宇宙エンターテインメントをイメージしてみると、関心のある世界遺産の現状を好きな時に好きなだけみられたら素晴らしいと思う。この世界遺産総数は全部で1000件以上あるといい、たまにテレビ番組などで視る程度でなかなか全容を眺めることはかなわない。世界遺産の中には、文化遺産が900件近く、自然遺産が200件以上あるそうで、これら全てをみたいときにみたい場所をウオッチしたいと思う。この目的は観光、エンターテインメントではあるが、これら遺産の現状を絶えずウオッチしていることでこれらの永久保存を考える一助にもなると考えている。関心のある遺産をウオッチし続けることで、これらの老朽化をチェックできたり、外的な崩壊要因も把握できたりする。ぜひ、SDGsの一環としてこれら活動にも関与して行きたいものだ。
■「海の幸」を次代に
野口 裕太(教員、37歳)
自由に使える人工衛星があるならば、宇宙から地球の水産資源の分布を精密に測定して、持続可能な水産物の捕獲に努めたいと考えた。近年、水産資源の価格高騰が著しい。庶民の魚として親しまれたサンマも、ここ数年はすっかり高級魚のように扱われている。なぜ、このようなことになったのか。一因として地球温暖化のほか、乱獲による影響が大きいと聞く。こうした問題と向き合い、次の世代に海の恵みを残していくためには、今まで以上に技術開発や様々な分野の知恵を結集しなければならない。その具体的な策として人工衛星の活用は効果的だと感じた。実現するまでにクリアしなければならない技術的課題は、そう多くないだろう。具体的な魚種の分布や海の水温、潮流を測定したえうで、漁船の動きも緻密にモニターできれば、乱獲の芽を摘むことはできるはずだ。目先の利益や欲にとらわれずに、次の世代に地球の豊かさを伝える取り組みに人工衛星を生かせればいい。
■感染症と向き合う
滝口 聖心(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、19歳)
もし私専用の人工衛星を手にすることができたら、自身の健康状態を管理に使いたい。世界中で新型コロナウイルスの感染拡大によって、外出制限などの自粛を求められる日々が続いている。東京都でも緊急事態宣言は解除されたが、再拡大のリスクが指摘され、自由に行動することにはちゅうちょしてしまう。今回このテーマを考えるために人工衛星で何ができるのかを調べてみると、疫病の感染状況を監視する役割が期待されていることがわかった。人工衛星で病原菌などを見て確認することはできないが、温度や湿度などから病原菌の感染ルートや拡大リスクの予測はできるという。こうした情報をもとに自分が行きたい場所のリスクを定量的に確認し、自粛すべきか判断することができる。コロナだけでなく、様々な疫病の感染リスクを把握できれば、今後も健康的な生活を続けられる。感染症の脅威と向き合いながら生きていかなければいけない現代に、人工衛星は強い味方になると思う。
■無重力系YouTuber
平野 ちひろ(関東学院六浦高校1年、15歳)
自分専用の人工衛星があったらYouTuber(ユーチューバー)になって宇宙のことや地球のことを伝えたい。今の日本は、小学生のなりたい職業ランキングの上位に入るほど、YouTuberが身近な存在になっている。それに比べて宇宙関係はどうか。宇宙で働く、国際宇宙ステーション(ISS)に乗る。そんなことは夢のまた夢だと思っている子供は少なくないと感じる。そこで、YouTuberになって、宇宙での実験などを配信することで興味を持ったり、勉強に役立てたりしてもらえるのではないか。最近、新型の太陽電池パネル設置の準備のためにISSの船外活動が行われた。私たちの生活を豊かにするために命をかけて働いている人がいるにもかかわらず、この地球ではそのニュースはほとんどなかった。素人目線でも、宇宙で行われていることに目を向けることは大切だ。「無重力系YouTuber」という言葉が世に出るのも、遠い未来の話ではないのかもしれない。
■衛星を守る衛星
大竹 美波(産業能率大学経営学部2年、20歳)
私は自分専用の人工衛星があったら、現在活動している衛星の保護に使いたいと感じた。「宇宙」や「人工衛星」と調べると、関連して多く出てきたのがスペースデブリ、宇宙ゴミだった。宇宙を漂う宇宙ゴミが衛星に衝突すると気象観測や通信などに影響を及ぼす。そうなってしまうと1日に1000億円の損失が生まれるとされている。そこで私は自分の人工衛星を、宇宙ゴミを増やさないための機械として利用できないかと考える。具体策としては、活動中の衛星に近づく宇宙ゴミを磁石の力を用いて方向を変えるといった方法だ。「回収」は難しいが、今ある衛星を保護し、宇宙ゴミ衝突によって新しい宇宙ゴミが増えるのを防ぐことはできると思う。宇宙ゴミの回収は今後の人類共通の課題である。そのため、まずは今ある衛星を保護すべきだと私は考えている。
■地球全体を芸術品に
森 千尋(大妻多摩中学校3年、14歳)
都市をデザインするという仕事がある。これの発展型として、地球をデザインするのに人工衛星を使ってはどうだろう。地球全体を俯瞰(ふかん)的に見渡せる、人工衛星の利点をいかすのだ。地球上にはさまざまな気候の地域が存在し、季節も異なる。どれも、地球全体をキャンバスとした芸術を構成する、美しいパーツとなるだろう。加えて、陸や海に色とりどりの物体を動かせば、一つひとつの物体は芸術に彩りを加えるパフォーマーになる。デザインした地球や物体によるパフォーマンスを撮影するのにも人工衛星を使おう。こうすれば、地球のあらゆる地域や人々が芸術品の一部になったことを、みんなが見ることができる。「まだまだ貧しい人も多いのに人工衛星をこんなことに使うなんて」と批判されるかもしれない。だが、私は、地球全体をデザインすることは、「すべての人間は同じ地球に住む仲間」という意識を強めてくれると考える。きっと、地球全体の進歩にもつながるはずだ。
■太陽と雪のサウナ
渡辺 颯(駒沢大学グローバル・メディア・スタディーズ学部2年、20歳)
せっかく自分専用の人工衛星なのだから、とことん趣味のために使いたい。私が最近凝っているサウナを、徹底的に豪華仕様にしようと思う。まず、人工衛星で撮影するのは太陽だ。サウナの中に太陽をギラギラと映し出すだけでなく、サウナを暖めるのにも太陽の熱を使う。太陽の光と熱を生身の体で存分に味わうのだ。私が知っているなかで最も「熱い」サウナになること、間違いなしだ。次に水風呂。ここではサウナの本場、フィンランドの気分を味わいたい。人工衛星で本場の雪と氷の世界をリアルタイムに撮影し、まるで厳寒のフィンランドの湖に飛び込んでいるかのような演出を施す。こんなサウナを自分だけのために使うなんて、とてもぜいたくな場所になりそうだ。私は熱々のサウナが好きなのだが、今まで自分好みのサウナに出会ったことがない。無駄遣いだと怒られるかもしれないが、人工衛星のテクノロジーを使って、この上ない非日常感を楽しみたい。
スカパーJSAT・米倉英一社長の講評
宇宙人と戦うなどSFのような投稿が多いかなと思っていましたが、違いましたね。環境を守る、地球を守るという視点に立った硬派なアイデアが目立ちました。資源を有効活用しようという意見は、20~30年前の若い人からは出てこなかったのではないでしょうか。今の皆さんには意識の中に「環境」というキーワードが常にあるのだと思います。
「現代のゴールドラッシュ」というアイデアにはなるほどと思いました。レアメタル(希少金属)やレアアース(希土類)を手に入れるために、宇宙をうまく活用できないかという考え方はよく分かります。宇宙空間の中で人間が使えるレアアースがどれだけあって、それをどう持ってこられるかがカギになりますね。
「宇宙で太陽光発電」という提案はまさしくその通りで、実際にもいろいろな研究が進んでいます。当社はNTTと組んでデータセンターの構想を進めていますが、これは宇宙で作った電力をそのまま宇宙空間で使ってしまおうという考え方です。人工衛星からエネルギーや発電を発想するのはなかなかできることではありません。知識が豊富だと感じました。
「リアルタイム地球儀」は夢がありますね。例えば海水の色や温度の変化、砂漠の拡大などを地球の上から見られれば、臨場感もあって教育の材料として面白いと思います。小中学生に見てもらうことで、地球に対する思いやりも生まれてくるのではないでしょうか。
多数のアイデアを送っていただき、ありがとうございました。当社の宇宙事業部門の社員とも共有し参考にしてもらうつもりです。皆さんの投稿からも宇宙の映像へのニーズが大きいことがよく分かりました。これからも宇宙と地球をつなげるような面白いことにチャレンジしていきたいと思っています。
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もし大きな隕石(いんせき)が地球にぶつかるとしたら、どう対処するか。インタビューの際にこんな話題でいっとき盛り上がりました。ウルトラマンを見て育った世代だからでしょうか。宇宙を舞台にした物語には心が躍ります。
起業家たちが相次ぎ宇宙飛行に成功し、月や火星に住むための研究も国内外で進んでいます。かつては夢物語だと思ったことがどんどん現実に近づいているようです。大きなスケールで発想を広げることの大切さを、皆さんの投稿を読んで改めて感じます。(編集委員 半沢二喜)