半ば強引なWindows 10へのアップグレードをどう見るか

半ば強引なWindows 10へのアップグレードをどう見るか

大河原克行氏の視点

 Windows 10への無償アップグレードが7月29日に終了するまでに、既に50日を切った。

 それに伴い、日本マイクロソフトは、Windows 10へのアップグレードを促す提案をさらに加速。その「強制」ぶりに批判が集まっている。

 6月中旬からは、Windows 7をSP1にアップデートしていないユーザーや、Windows 8.1にアップデートせずに、Windows 8のまま利用しているユーザーに対しても、Windows 10への無償アップグレードを促す告知を、デスクトップ上に表示することも明らかにしている。対象外のユーザーに対しても、対象OSへとアップデートさせ、Windows 10へとアップグレードさせるという、想定外の措置にまで乗り出す。これらのユーザーの多くは意思を持ってアップデートを避けてきた人たちが多いと見られるが、日本マイクロソフトはそこにまでメスを入れてきた。

 日本マイクロソフトのやり方には問題があると言わざるを得ない。

 その最大の理由が、最新の状態で表示される「Get Windows 10」アプリでは、「Windows Updateの設定に基づき、このPCは次の予定でアップグレードされます」と表示され、アップグレードの予定日時を表示するが、問題は、この文言が表示されたアプリの右上の「×」ボタンを押しただけでは、アップグレードを拒否したことにはならないという点だ。

 これまでのWindowsの操作では、「×」ボタンを押せばその操作はキャンセルになるのが一般的。日本マイクロソフトでも、最新のGet Windows 10アプリが表示されることになる5月13日公開の修正プログラム「KB3095675」以前までは、「×」ボタンを押すことでキャンセルできるという説明をしていたが、今では、その説明が通用しなくなっている。

 その結果、意図しないのにWindows 10にアップグレードされる作業が開始されてしまうケースが続出。これが世界的に問題となっている。だが、この点への改善を行なう気配は日本マイクロソフトには見られない。7月29日までこの姿勢を貫き通す考えのようだ。なんとしてでもWindows 10へとアップグレードさせたいというのは分かるが、これではユーザー無視の状況と言わざるを得ない。

 個人ユーザーだけでなく、企業ユーザーへの影響も見過ごせない。

半ば強引なWindows 10へのアップグレードをどう見るか

 大手企業や中堅企業では、情報システム部門などが主導して、PCの導入を図っており、制御をかけるといったことも行なっているが、専門部署を持たない中小企業では、現場部門において作業中にWindows 10へのアップグレードが開始されるなどの「トラブル」が発生している。

 一部企業では、Windows 10にアップグレードされたPCでは、経理精算のシステムが利用できなくなり、業務が滞るという問題が噴出した例を聞いた。最新のセキュリティ環境を実現できるなどのメリットはあるが、検証がしっかり行なわれなくては、業務に支障を来す可能性がある。

 実は、企業では未だにWindows 7の利用が多い。それは圧倒的もいえるほどだ。

 一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が発表した「企業IT動向調査2016」では、Windows 7を導入している企業は87.7%にも達している。2014年4月のWindows XPのサポート終了を受けて、前年調査の80.9%から、増加している始末だ。そして、Windows 10の導入企業は1%未満に留まる。

 ビジネス用途が8割以上のパナソニックの場合、未だに半数以上がWindows 7搭載モデルやWindows 7へのダウングレードモデルでの出荷である。個人ユーザー以上にWindows 7へのこだわりが強いのが、日本の企業の特徴だ。

 業界内では、この6月末にWindows 8搭載PCの出荷が終了するため、Windows 7へのダウングレードを行なうために、これを購入したいという企業が相次ぎ、ちょっとした特需が生まれている。そして、2016年10月31日には、Windows 7搭載PCおよびWindows 8.1搭載PCの出荷が終了することになるため、さらに大きな特需があると予想されている。まだ、企業利用の中心はWindows 7であることに変わりはない。

 ところで、気になったのは、2度目のWindows 10の日とした6月10日に開催された日本マイクロソフトの記者会見における、世間との温度差の違いだ。

 Windows 10へのアップグレードにおける問題は、国会でも取り上げられ、安倍晋三首相の名前で答弁書が提出されるなど、国民的関心事として注目を集め、その「強制」ぶりにも非難の声が挙がってている。

 会見では、記者の間からもその点に関する質問が相次いだが、日本マイクロソフトでは、キャンセルできるパスが用意されていることやアップグレードをしても1カ月以内であれば元に戻せることを理由に、「強制ではない」と反論。そして、「意見は、米本社にフィードバックしている」と繰り返しながらも、「通知内容を見直す予定はない」、「日本だけ変更することはできない」などと回答した。

 この問題は、パスが用意されていることや、元に戻せるといった仕組みを用意しているから解決するものではなく、キャンセルの分かりにくさを発端にした強制的とも言えるアップグレードの仕組みにある。日本マイクロソフトが訴えるWindows 10のメリットも理解はできるが、今の状況で使い続けたいユーザーは必ずいる。キャンセルの仕方が分かりにくいため、これらのユーザーに対して、余計な労力や時間的負担をかけているのは明らかだ。

 会見の最後には、記者との間に押し問答的なやりとりも行なわれた。ここでは、なんとか謝罪の言葉を引き出したいという記者の意図も感じられはしたが、強い口調での質問に、Windows事業部門の責任者が回答に窮し、広報担当者に発言のフォローを求めるというシーンが見られたことは残念だった。この問題に対して、事業責任者が真っ向から取り組んでいないことを証明することにもなってしまったからだ。

 米本社の手法をそのまま踏襲せざるを得ないという事情もあるのだろうが、このままの状態で7月29日まで押し切るのであれば、それは、平野拓也社長が掲げた「喜んで使っていただけるクラウドとデバイスを提供する」という、日本マイクロソフトのスローガンの実現からは離れることになる。