「UTMはこれまで、比較的大きめのお客さまに使われてきました。しかし、昨今の市場の変化で、中小企業にもニーズが高まっていると考えています」と、岸氏はUTM製品を発売した背景を語った。
具体的には、次の3つを氏は挙げる。
1つめは「クラウドアプリケーションの普及」。企業内の情報が、オンプレミスだけで管理されていたのが、インターネット上で管理運用されるようになってきたことだ。2つめは「企業内の情報資産の価値の向上」。個人情報など、企業内で取り扱うデータの重要度が増し、ルールが厳格化することで取り扱いも難しくなっているという。また3つめは「ネットワーク接続環境の多様化」。コロナ禍で、テレワークなど外からオフィスにアクセスするようになったことが一番影響している。
企業の環境の変化・課題これらに加え、「当社のお客さま相談センターでも、UTMに関する質問を非常に多くいただいていました」と岸氏は述べる。
例えば、拠点間のVPN接続にヤマハルータを用いている企業において、新しく追加する側の拠点で他社製UTM機器のVPN機能を用いる場合があり、そうした相互接続が可能かについて質問があるという。
また、ヤマハのネットワーク機器でネットワークを構成していると、LAN内を見える化する「LANマップ」機能を利用でき、多くの企業にて便利に利用されている。しかし、ヤマハ製品でネットワークを構成している場合でも、他社製UTMをルータ配下に置くと、UTM以下がLANマップで見えなくなってしまうことがあり、何とかならないかという要望があるとのこと。
こうした、ヤマハルータと他社製UTMの組み合わせについては、ヤマハではなくUTMのベンダー側の対応も確認する必要があるが、「UTMベンダーは海外企業が多く、国内の代理店を経由してサポートを受ける必要があるため、時間解決に時間がかかるなど、対応が難しい場合も多いのです」(岸氏)。
特に接続性の課題は、機器のベンダーが異なる場合にはよくあることだが、ヤマハルータとUTMの組み合わせのニーズがあるなら、ヤマハがUTMを発売すれば、ヤマハが一貫してサポートできることになり、顧客のメリットは大きい。
UTXシリーズで掲げられている「ヤマハネットワークに溶け込むUTM」というコンセプトは、こうした背景を受けてのものだ。ヤマハが自社製品としてUTMを提供することにより、ヤマハ製品で構成されたネットワークに対して、何の心配もなく導入できる。もちろん、ヤマハルータとの接続やLANマップへの対応といった問題も解決されるわけだ。
それとともに重視したのが、想定顧客の課題を解決することである。
UTXシリーズのうちUTX100は、ルータとしてRTX830やNVR510などが使われている小規模オフィスを、UTX200は、ルータとしてRTX1210やRTX1220などが使われている中規模オフィスをそれぞれ想定している。つまり、ヤマハが得意としてきた中小企業の課題にフォーカスして開発が行われた。
そうした企業の抱える課題の1つめが、「早急にセキュリティ対策をしたいが、現状のネットワーク設定を大きく変えたくない」というもの。これに対しては、中小企業に必要とされるセキュリティ機能を1台で提供することで解決できると踏んだ。
2つめが、「ヤマハネットワークとセキュリティをセットで運用したい」というものだが、これに対しては、ヤマハルータとの連携や一元管理を提供することで解決を図っている。
そして3つめとして、「万が一の際、円滑にトラブル解決できるか不安」が挙げられる。これに対しては、専用サポート窓口を開設し、ワンストップで問い合わせを受けられるようにしている。
「海外ベンダーが多く、メーカー直接のサポートのないUTM製品に関して、特に中小企業では、導入の敷居や運用の課題が大きいと認識しています」と岸氏。「SOHOルータのメーカーとしてUTM製品を出し、サポートも一元化することで、中小企業のネットワークの向上のために、簡単に導入していただけるよう価値を提供できると考えています」。
中小企業のUTMにおける3つの課題を解決こうして3月に発売されたUTMアプライアンスが、小規模向けの「UTX100」と中規模向けの「UTX200」の2機種だ。サイズは、UTX100が210mm×40mm×160mm、UTX200がUTX100が210mm×45mm×178mmと、RTX830ぐらいの大きさとなった。
UTX100とUTX200では、搭載しているセキュリティ機能に違いはない。処理性能と、LANポートの数(UTX100はLAN 5ポートとWAN 1ポート、UTX200はLAN 8ポートとDMZ 1ポートとWAN 1ポート)が違うだけだ。
UTX100とUTX200の比較UTX100とUTX200の利用規模のイメージ実はUTXシリーズは、セキュリティベンダーとして著名なイスラエルCheck Point Software Technologies社(以下、Check Point)のUTMアプライアンスのハードウェア/ソフトウェアがベースになっている。しかし、単にブランドを変えて販売したものではなく、すでに述べた「ヤマハネットワークへの統合」「想定顧客の課題の解決」のために、ヤマハが内部に手を加えた製品として作られているのだ。
ヤマハのネットワーク機器には、店舗などの小規模拠点に長く置いて壊れないという信頼のイメージがある。ヤマハルータのブランドイメージを守るため、ヤマハ独自の厳しい品質基準でベンダーを選定し、UTX100/200においてもCheck Pointは品質基準を満たせると判断。さらにCheck Point内部では行われていないような試験なども実施したという。