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菅首相、自民党総裁選への立候補見送り:識者はこうみる

菅首相、自民党総裁選への立候補見送り:識者はこうみる

By Reuters Staff

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[東京 3日 ロイター] - 菅義偉首相は3日、自民党の総裁選挙に立候補しないことを表明した。デジタル化や環境対策の推進を掲げてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、衆議院選挙前に党内で総裁交代論が強まる中、就任から1年で退陣することとなった。市場関係者のコメントは以下の通り。

●金利上昇圧力強まる、国債増発懸念や株高で

<SBI証券 チーフ債券ストラテジスト 道家映二氏>

今後総選挙が行われるが、自民党の総裁選に誰が勝利したとしても、短期的には大型の経済対策を打ち出すとみられ、年明けにも国債増発するという状況になりやすいので、需給が悪化すると意識されやすい。また、株高の流れからも債券が少し売られやすくなる。

今晩公表される8月の米雇用統計の結果次第にはなるが、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会(FRB)が11月にテーパリングの是非を決めるという予告を出すとみている。9日の欧州中央銀行(ECB)理事会でも国債の買い入れのペースダウンについて議論が出る可能性がある。

世界的に金利が上昇しやすい時間だが、一方で中国をはじめ景気減速への懸念も出始めていることから、金利上昇幅も限られるのではないか。

日銀は淡々と出口に向かうとみているが、コロナ感染拡大への影響が続く中、引き締めを強化することは難しい。このため、日銀への影響はないとみている。

●閉塞感払しょく、今後は25日平均線などが株価サポート

<野村証券 ストラテジスト 澤田麻希氏>

これまで菅義偉政権下において進められたコロナ禍に関連する政策が、目に見えた効果があるとは言い難かったため、マーケットにも手詰まりムードが漂っていたが、首相交代によって新たな一手が打ち出されるとの期待から、閉塞感が払しょくされた格好だ。

ただ、海外の経済指標も含めてファンダメンタルズに関して、足元で大きな変化があったわけではない。現時点では政策運営の枠組みが変わるリスクが後退したという安心感や、漠然とした総選挙に向けての政策期待などが株高の理由になっており、今後は新首相が打ち出す景気浮揚に向けての具体的な経済政策を見極め、それを相場は織り込んで行くことになるだろう。

日経平均の動きについては、上にブレークした格好となった。そのため、これまで上値抵抗線として意識されていた25日、75日、200日の各移動平均線が今後は下値をサポートすることになるとみられるが、直近で1500円幅の上昇を記録した後だけに、来週は調整を入れる可能性もある。

●初期反応はリスクオンの売り、今後は次期総裁の政策に関心

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニア債券ストラテジスト 稲留克俊氏>

菅首相退陣のニュースは円債市場がマーケットの昼休み時間帯に伝わり、まずは株価先物が急上昇して反応した。日本国債先物は下げ幅を大幅拡大して午後の取引をスタートしているが、これは株価がリスクオンで買われた流れに乗った「リスクオンの債券売り」であって、市場は次期(自民党)総裁が誰になりそうとか、政策がどうなりそうという具体的なイメージを持って反応しているわけではないと考える。

円債市場は日銀の影響力が非常に大きいマーケットであり、市場関係者は、アベノミクス以降、政府・日銀が一体となって進めてきた日銀の金融政策がどうなるかに大きな関心を持っている。過去の自民党総裁選を振り返っても、石破氏や岸田氏など、必ずしも日銀の現行の金融政策が望ましいと思っている人ばかりではなかった。今後次期総裁が誰になるか、その人物が日銀の金融政策についてどのような考えを持っているかが明らかになってくれば、債券市場はその段階であらためて反応するとみている。

●菅氏の不出馬は想定外、高市氏の確率上昇か

<第一生命経済研究所 主任エコノミスト 藤代宏一氏>

ここ1週間の日本株は国内での新型コロナウイルスの新規感染者数にピークアウトの前兆が現れたことに加え、国政選挙に伴う経済政策への期待感で底堅い動きとなっている。感染者が急増する中で景気対策に言及すると、人命軽視と捉えられかねない。これまでの政府は感染対策を求める声と経済対策を求める声に板挟みになる状態となっていたが、内閣一新となると政策に取り組みやすくなるだろう。ようやく明るい兆しが見えてきたのではないか。ただ、このタイミングでの菅義偉首相の自民党総裁選不出馬表明は想定外のシナリオ。政治は予想しても意味がないということを改めて実感した。

市場参加者は岸田文雄氏か高市早苗氏を望んでいるとみている。昨日までは菅氏と岸田氏一騎打ちの状態となっていたが、菅氏の総裁選への不出馬表明後、高市氏の総裁就任の確率は確実に上がった。高市氏の経済政策へのスタンスは明確で、アベノミクスよりもさらに強力な財政出動を行う話があるほか、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標の棚上げにも言及している。メインシナリオは依然として岸田氏だが、きょうの上昇相場は高市氏を期待する動きも含まれているのではないか。

●サプライズ反応も一時的、日銀金融政策への影響はなし

<大和証券 チーフマーケットエコノミスト 岩下真理氏>

菅政権のコロナ対応への不手際で年明け以降支持率が低迷していたことから、自民党総裁選の出馬を見送ることはある程度想定はされていた。しかし、このタイミングで明らかになったことで、退陣すると確信していなかったマーケットが反応した。

今後の総裁選と衆院選挙で自公が過半数を割れるか割れないか次第となる。有力候補とみられる岸田氏が総裁になった場合、数十兆円の経済対策を打ち出すとみられ、その期待感から株式はある程度の水準は維持できる。予算編成が成立し、仮に国債増発があるとしても年明けだろう。日銀の金融政策については影響はないとみている。

 29日の総裁選まで時間がある。市場は今晩発表される8月の米雇用統計、21-22日の米連邦公開市場(FOMC)結果を注視する展開が続くだろう。

●金融政策への影響限定的、為替市場は反応薄

<三菱UFJモルガンスタンレー証券・チーフ為替ストラテジスト、植野大作氏>

菅義偉首相が自民党総裁選の出馬を見送り、辞任の意向を固めたと伝わったが、為替市場への影響は今のところ限定的となっている。今後、誰が首相になるのかといった不透明感もあり、ドル/円相場はやや円売りが進行したが、報道後の値幅は20銭ほどと限られている。

株式市場では日経平均が大きく値上がりするなど影響が大きいが、マーケットによって政治ネタに対する反応には温度差がある。菅首相が辞任し首相が変わったとしても、直接的に日本の金融政策に大きな変更がある可能性は低く、為替マーケットでは反応が薄いようだ。

菅首相、自民党総裁選への立候補見送り:識者はこうみる

また、市場関係者の関心は今晩米国で発表される8月雇用統計に向かっているため、菅首相辞意の報道はサプライズだったが、インパクトはそれほど大きくない。

目先のドル/円相場は、米雇用統計の結果次第ではあるものの、109円前後から111円付近で推移するとみている。雇用統計後はFOMC(米連邦公開市場委員会)をにらみ、再び様子見姿勢が強まりそうだ。

●米雇用統計前で無駄なポジション取りは手控え

<FXcoin 取締役 上田眞理人氏>

菅首相の総裁選不出馬報道を受け、ドル/円は109.86円から110.07円と約20銭円安となったが、現在は110円付近まで反落し、膠着している。

きょうの外為市場は8月の米雇用統計待ちとなっており、為替関係者100人に聞けば、100人が日本の政局より雇用統計が大事と言うだろう。このため無駄なポジション取りは手控えられ、ドル/円の反応も限定的だった。

この報道で海外勢はまず動かないだろう。

なぜならここまでは、自民党内のゴタゴタの結果にすぎないからだ。

今後関心は選挙に移っていくと思うが、選挙では代表として菅氏以外の人物を立てた方が、自民党にとっては好都合という判断だろう。

コロナ対策の連続性については問題はなさそうだ。むしろ、恐怖政治(人事)で、これまで官僚が委縮していた分、風通しが良くなり、物事が進展することが期待される。

そもそも過去を振り返っても、日本の政治が円相場に中長期的な影響を及ぼすことはほぼなかった。今回も同パターンになるとみている。

●野田元首相の解散言及時に酷似、新首相の政策見極めに

<岡地証券 投資情報室長 森裕恭氏>

支持率が低迷していた菅義偉首相が退陣を決めたことによって、株式市場では総選挙で与党が壊滅的な敗北を喫し、政権交代、それに至らないまでも政治の不安定化が避けられると読んだのだろう。これ以上は悪化しないという意味で、民主党政権末期に当時の野田佳彦元首相が解散に言及して、直後から株価が急騰した経緯に酷似していると言える。

ただ、当時もそうだったが、現時点では具体的な政策は見えていないため、今後は自民党総裁選、総選挙を通じて市場は新首相政策を見極めていくようになるのではないか。

また、きょうの動きによって、日本株の出遅れは、ワクチン接種など新型コロナウイルス禍への対応の遅れではなく、政治リスクが頭を抑えていたことがはっきりした。首相交代が出遅れ修正に繋がるとともに、日経平均が2万8000円を割り込むような下落は当面なくなりそうだ。

●岸田氏は後継有力候補だが、他の候補の出馬も

<ピクテ投信投資顧問 シニアフェロー 市川眞一氏>

菅総理は支持率が低下する中、解散を図りながらもできなかった時点で、いわば「死に体」となっていたように思われる。このままいっても、総裁選で支持が集まるとは限らない状況となっていた。

次の総裁の候補としては、リスクを取って手を挙げていた岸田前政調会長が有力候補であることは間違いない。ただ、菅首相が出馬しなくなったことで、今後他にも候補者が出てくる可能性がある。石破元幹事長(訂正)や、茂木外相なども出馬を検討する可能性がある。

今後の政権に求められるのは、大きく言って2つの課題だ。

1つはまずコロナ対策だ。欧米が大規模な感染から復元力を見せているのに対して、日本はある程度抑え込んできたものの、ダラダラと感染が続き第5波を作ってしまった。

もう1つが、日本経済をどう立て直すのか、人口減少・高齢化が進む中で生産性をどう引き上げて言うのか、そこを市場は期待している。安倍前首相は、政権当初は三本の矢で力を入れていたが、成長戦略がうまく行かず、結局、竜頭蛇尾となった感がある。

岸田氏は、数十兆円の経済対策を提案しているが、おそらく他の候補もそのような提案をしてくるだろう。

問題はその先で、今がしっかり政策を出して経済を支える必要があるが、いつまでもそれを続けられるわけではない。どのようにして出口を探るのか、そのことも問われ続けるだろう。

●中期的に政治不安定化の懸念も

<ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋 康次氏>

菅義偉首相が退陣の方向で意思を固めたのは、現在の情勢からみて自民党総裁選で勝利するのが難しいほか、勝っても負けても自民党内が分裂する恐れがあると判断したからではないか。

現在、唯一出馬を表明しているのは、岸田文雄元政調会長だけだが、石破茂元幹事長のほか、現閣僚の出馬に否定的だった菅首相が退くことで、河野太郎規制改革相や、茂木敏充外相の動向も注目される。

金融市場では、過去にとらわれない新しい政策を期待し、短期的には株高で反応しているが、中長期的には政治の安定という点で懸念もある。

菅政権は約1年で幕を閉じることになった。新首相の求心力次第だが、中曽根康弘氏、小泉純一郎氏、安倍晋三氏、など長期政権の後は短命政権が続いたのが日本の政治の系譜だ。これから脱炭素や、安全保障、デジタルなど重要なテーマが国際社会で議論される中、日本が出遅れないか不安もある。新首相の下、日本の政治が活力を取り戻すことを期待したい。

*内容を追加しました。

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