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10月は脳卒中月間 コロナ禍でも、迷わずに救急車を

10月は脳卒中月間 コロナ禍でも、迷わずに救急車を

 10月は脳卒中月間。日本人の死因第4位(※1)である脳卒中に関する様々な啓発活動が行われます。脳卒中を防ぐには、原因の一つである心房細動の予防や治療も大事です。そこで日本脳卒中協会理事長の峰松一夫先生を司会に、脳卒中の専門医である松丸祐司先生、不整脈の専門医である奥村謙先生にそれぞれの予防や治療について伺う座談会を開催しました。

心房細動がある人は脳梗塞(こうそく)を発症しやすい

峰松 まずはそもそも脳卒中とはどんな病気なのか。日本での発症状況など、基礎的なことを松丸先生から説明していただきたいと思います。

松丸 脳卒中は脳の血管で起きる病気です。血管が閉塞する脳梗塞、脳の表面の血管が破れるくも膜下出血、脳の内部の血管が破れる脳出血の三つがあります。すべて急激に発症する重篤な疾患です。そのなかでも、もっとも多いのが脳梗塞です。日本では脳卒中全体の約3分の2を占めています。 脳卒中は2019年の日本人の死因第4位。日本で亡くなられた方の約8%、毎年約11万人が、脳卒中が原因で亡くなっています(※1)。生存者にも重い後遺症が残ることが多く、寝たきりや認知症の原因にもなります。2017年の報告では、日本では脳卒中の方が112万人(※2)ほどいると言われています。1年間に約30万人が発症(※3)しているとの報告もあります。

峰松 脳卒中の症状で一番多いのが顔や手足など、体半分にまひやしびれが起きることですね。次にろれつが回らない、言葉がうまく出ない、人の言うことが理解できないといった言語障害です。この二つで脳卒中により発症する症状の約8割を占めます。 他にはうまく歩けなくなったり、体のバランスがとれなくなったり。片目が見えなくなったり、ものがダブって見えたりするなど、目に症状が出ることもあります。重症の場合、意識を失うこともあります。また今まで経験したことのない激しい頭痛が起きたときは、くも膜下出血の可能性があります。以上のような症状が起きたときは、迷わず救急車を呼んでください。 さらに最近、脳梗塞の原因の一つとして心房細動に大きな注目が集まっています。

奥村 心房細動は不整脈の一種です。心臓には四つの部屋があり、上の二つを心房、下の二つを心室と呼びます。通常は心房と心室が順序よく収縮を繰り返し、全身に血液を送っています。この心房が正常に収縮せず、細かく震えるようになった状態が心房細動です。 症状としては、心拍数が速くなり、動悸(どうき)を自覚することが多くなります。胸部の不快感や息切れを感じることもあります。めまいがしたり、失神したりすることもあります。初期の心房細動では、症状が現れてもたいてい数時間でおさまります。ただ発作を何度も繰り返すうちに止まりにくくなり、慢性の持続性心房細動に進行します。注意を要することは、心房細動がある人のうち、約半数(※4)の人は自覚症状がないことです。最初は症状があっても、だんだんそれを感じなくなる人もいます。だからといって、そのまま放っておくと脳梗塞などさまざまな合併症を引き起こす可能性があります。 心房細動は高齢者に多く、男性、高血圧や肥満、睡眠無呼吸症、心臓病の人が発症しやすいと言われています。65歳以上の方は定期的に健康診断を受け、また普段から脈をとって早期発見を心がけることが大事です。脈の取り方は日本脳卒中協会のWebサイトをご覧ください。最近の家庭用血圧計には脈の乱れを検知してくれる様々な機種があります。また最新のApple Watch(※5)などのデジタルギアには心房細動の診断のためのツールがついているタイプもあるので、これらを活用するのもよいでしょう。(※6)

峰松 確かに脳卒中の診療をしていると、心房細動を合併している人が非常に多いですね。でも本人や家族はそのことを知らず、脳卒中を起こしてはじめて心房細動があることに気づくケースが少なくありません。いずれにしろ心房細動と脳卒中には非常に大きな関係性があります。

奥村 心房細動がある人は、脳卒中や心不全、腎臓病など様々な病気を起こしやすくなります。それによって亡くなる方も多くいらっしゃいます。心房細動がある人はない人より脳卒中を約5倍発症しやすいとの研究データ(※7)もあります。心房細動があると心房が正常に収縮しないため、心房内に血液がよどみます。血液はよどむと固まりやすくなる性質があるので、心房内に血栓が形成されやすくなります。その血栓が何かの拍子に血液の流れにのって全身へ運ばれ、それが脳の血管を詰まらせることで、脳梗塞となるのです。

松丸 心房細動が原因で発症する脳梗塞は、特に脳の太い血管に血栓が詰まる脳主幹動脈閉塞という非常に重篤な疾患を引き起こすので注意が必要です。

カテーテルアブレーション治療で心房細動の根治を目指す

峰松 脳卒中はまずは予防が大事です。心房細動以外にも、高血圧や糖尿病、運動不足や肥満、たばこやお酒、塩分の取りすぎなども危険因子です。日本脳卒中協会のWebサイトでは、脳卒中予防十か条を紹介しています。これを見て、該当する方はぜひ予防に努めていただきたいです。十か条の最初の三つは「手始めに 高血圧から 治しましょう」「糖尿病 放っておいたら 悔い残る」「不整脈 見つかり次第 すぐ受診」です。ただどんなに予防に気をつけても、脳卒中を引き起こすことはあります。そこで十か条の最後は「脳卒中 起きたらすぐに 病院へ」としています。万が一、脳卒中になってしまったら、治療は時間との勝負です。一刻も早く病院に行くことが大事です。

松丸 特に脳梗塞は発症後、数時間以内に治療することが、その後の経過に大きく影響します。脳梗塞の治療法には、詰まった血栓(血の塊)を溶解する薬を点滴するアルテプラーゼ(rt-PA)静注療法と、カテーテルを血管のなかに通し、詰まった部分を再開通させる機械的血栓回収療法があります。これらの治療は1分でも1秒でも早く行う必要があります。治療を速やかに行えば、発症したときに意識障害やまひがあっても、治療後は歩いて帰れるまでに回復する方もいらっしゃいます。早ければ早いほど後遺症を軽減できる可能性があるため脳卒中治療医は24時間、365日体制で診療にあたっています。 これらの治療は、脳卒中学会が認定している脳卒中センターで受けられます。患者さんが脳卒中センターの場所を知らなくても、救急隊の人が受け入れた人を脳卒中だと判断すれば、最も適切な病院に搬送してくれます。ですから迷わず救急車を呼んでください。 また脳卒中は、治療後に後遺症や機能障害が残ることがよくあります。そこで治療後はリハビリテーション専門の回復期病院に転院します。そのような場合でも、最近は早期のリハビリテーションにより、社会復帰できるケースが増えています。ただ脳卒中は再発が非常に多く、1年間で5%程度、10年間で半数程度が再発したとの報告(※8)もあります。自宅に戻ってからは、再発予防が重要です。そのためには生活習慣を改善し、適切な薬を服用する。さらに脳卒中の原因となる心房細動の管理、治療を行うことが重要です。

峰松 心房細動のある方は特に脳梗塞を再発しやすいですからね。だからこそ心房細動を、事前に治療しておくことが大事なんですね。最近は新しい治療法により、心房細動の根治を目指せるようにもなりました。

奥村 そうなんです。脳卒中や心不全などの原因となる心房細動は、絶対に放置してはいけません。とくに脳梗塞の発症リスクがある人は、予防のための抗凝固薬による治療が必要です。抗凝固薬とは血液をサラサラにし、固まりにくくする薬です。ただ抗凝固薬を服用すると出血しやすくなり、ケガをすると血が止まりにくくなったりします。そのため専門医に相談のうえ、適切に服用するよう心がけましょう。 抗凝固薬による治療を始めたら、同時に心房細動そのものに対する治療も行います。心房細動のなかでも動悸や息切れ、めまいなどが起きやすい発作性心房細動では症状を軽くする治療を行います。これまでは薬による治療が中心でしたが、最近はカテーテルアブレーション治療(図参照)で、心房細動の根治を目指すことも可能となっています。 この治療は麻酔下に、足の付け根から静脈内に直径2〜3ミリのカテーテルを挿入。心臓の中まで進め、心房細動の原因となる部位を電気的に焼灼(しょうしゃく)または冷凍するというものです。当院では、発作性心房細動の場合、約2時間程度で治療は終わり、数日間の入院で済むことが多いです。発作性心房細動であれば、術後の1年間で約90%の方が発作を起こさなくなります(当院データ)(※9)。ただ持続性の心房細動は、治療をしても再発しやすくなります。従ってできるだけ初期の段階で、アブレーション治療を受けることが大切です。なおアブレーション治療の合併症として、約1%の方が心臓の壁が傷ついて出血したり、治療中や後に血栓ができて脳梗塞を起こしたりするケースがあります(※10)。治療の詳細については、不整脈の専門医にご相談いただきたいと思います。 また心房細動の治療を進めていくうえで大事なことが、高血圧や心臓病などをもっている方はきちんと治療しておくことです。それは脳梗塞や心不全の予防にもなります。

峰松 カテーテルアブレーション治療を行って心房細動がなくなれば、抗凝固薬はやめることができるのでしょうか。

奥村 抗凝固薬をいつまで継続すべきかに関するエビデンスはまだありません。一般的なガイドラインでは、脳梗塞のリスクが低く、心房細動の再発がなければ3カ月で中止してよいとされています。ただ脳梗塞を発症しやすい危険因子がある方、脳梗塞を発症された方は、長期間の抗凝固薬療法は必要だと考えます。

コロナ禍でもこれまで通り診療・治療できる体制を整備

峰松 ところで今はコロナ禍により、医療崩壊の危険性もあります。救急車がスムーズに患者を病院に運べないことも現実にありました。そのような状況のなか、患者が受診を控えているケースもあるようです。脳卒中を疑っても、今までのように救急車を呼んでいいのかどうか。悩んでしまう人もいるかもしれません。この点については松丸先生、いかがでしょうか。

松丸 海外でも日本でも、ロックダウンや緊急事態が宣言された際には、脳卒中の患者の受診、治療件数が減っています。その理由の一つとして、軽症の方が受診を控えているのではないか、ということが推測されます。脳卒中治療医としては、そのような受診控えを大変懸念しています。脳卒中は最初の発症は軽症でも、その後、重篤になる場合があります。最初の症状が軽いからと受診を控えていると、手遅れになることもあります。私ども脳卒中治療医は、コロナ禍でも感染防止に細心の注意を払ったうえで、これまで通り診療、治療できる体制を整備しています。よって脳卒中を疑う方は迷わず、救急車を呼んでいただきたいですね。

10月は脳卒中月間 コロナ禍でも、迷わずに救急車を

峰松 ただ具体的にどんな状態のときに救急車を呼べばいいかわからない、という患者や家族もいらっしゃいます。

松丸 そこで目安となるのが「ACT-FAST」(図参照)ですね。FはFace(顔)、 Aは Arm(腕)、 SはSpeech(言葉)。この三つのうち一つでも症状が出たらただちに救急車を呼ぶ必要があります。最後のTはTime(時間)で、発症した時間です。点滴によるアルテプラーゼ(rt-PA)静注療法は4.5時間以内に行う必要があり、早ければ早いほど有効です。よって症状が起きた時間を確認しておくことが大事です。

峰松 「ACT-FAST」を含め、一般の方に脳卒中や心房細動のことをよく知っていただくことが、効果的な予防や治療につながります。そこで日本脳卒中協会でも長年、啓発活動に力を入れてきました。日本では今年から10月が脳卒中月間となり、「『大丈夫 ほっときゃ治る』が命取り」を標語に、市民公開講座などさまざまな啓発活動を行います。さらに10月29日は「Minutes can save lives」を標語に掲げた世界脳卒中デーとなり、世界的に啓発活動が推進されます。

奥村 心房細動に関しては、3月9日を脈の日(3:みゃ、9:く)とし、9〜15日までの1週間を心房細動週間としています(日本脳卒中協会と日本不整脈心電学会)。この期間、国民の皆さまに心房細動のことをよく知ってもらい、日頃から脈をとっていただくための啓発活動を行っています。

峰松 それらを通じて、さらに一般の方への理解が深まることを期待しています。最後にまとめとして、お二人から一言ずつお願いします。

松丸 脳と心臓は密接につながっています。脳の血管が詰まれば脳梗塞に、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞になります。この二つは病気としては似ていますが、大きな違いがあります。心筋梗塞の患者さんは胸が苦しくなり、死の恐怖を感じるので、みなさん迷わず救急車を呼びます。いっぽう脳梗塞の人は、痛みや苦しみ自体ががあまりないので、症状が出てもすぐに救急車を呼ばず、様子を見る人が多いようです。とくに日本の高齢者は我慢強いので、夜中に近所迷惑だからなどと、救急車を呼ぶことを遠慮してしまいがちです。でもそれが命とりになります。脳卒中は一刻を争う病気です。顔や手のまひ、言葉の障害などの症状が出たらどんなに軽くても、コロナ禍であってもすぐに救急車を呼んでいただきたいと思います。

奥村 脳卒中の大きな原因となる心房細動は、高齢になれば誰でも発症する可能性があります。したがって健康管理に気をつけ、予防するとともに、普段から定期的に脈を取り、早期の発見、受診を心がけることが大事です。また早い段階で心房細動があることがわかれば、適切な治療で脳梗塞を予防し、心房細動自体をより高い確率で根治を目指すこともできます。脈の乱れを放置せずに、かかりつけ医、循環器内科医や不整脈を専門とする医師にご相談ください。

 

脳卒中は予防が大事。治療は時間との勝負

心房細動は定期的な脈とりで早期発見を

コロナ禍でも軽症でも一刻も早く受診を

(※1)出典:厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」

(※2)厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」

(※3)Takashima N, Arima H, Kita Y, Fujii T, Miyamatsu N, Komori M, Sugimoto Y, Nagata S, Miura K, Nozaki K. Incidence, Management and Short-Term Outcome of Stroke in a General Population of 1.4 Million Japanese: Shiga Stroke Registry. Circ J 2017 (in press)

(※4)Esato M, Chun YH, An Y, et al. Clinical impact of asymptomatic presentation status in patients with paroxysmal and sustained atrial fibrillation: the Fushimi AF Registry. Chest 2017; 152: 1266–1275. PMID: 28823813

(※5)Apple Watchは、Apple Inc.の商標です。

(※6) https://www.apple.com/jp/watch/why-apple-watch/

(※7)1) Wolf PA, Abbott RD, Kannel WB. Atrial fibrillation as an independent risk factor for stroke : the Framingham Study. Stroke 1991;22:983-988.2) Krahn AD, Manfreda J, Tate RB, Mathewson FA, Cuddy TE. The natural history of atrial fibrillation : incidence, risk factors, and prognosis in the Manitoba Follow-Up Study. Am JMed 1995:98:476-484.3) Levy S, Maarek M, Coumel P, Guize L, Lekieffre J, Medvedowsky JL, et al. Characterization of different subsets of atrial fibrillation in general practice in France : the ALFA study. The College of French Cardiologists. Circulation 1999 ; 99 :3028-3035.

(※8)HATA, J.et al.: J. Neurol.Neurosurg.Psychiat,. 76. 368-372, 2005

(※9)Okamatsu H, Okumura K, Kaneko S, et al. Ablation index-guided high-power radiofrequency application shortens the procedure time with similar outcomes to conventional power application in atrial fibrillation ablation. Circ Reports. doi:10.1253/circrep.CR-21-0099

(※10)Murakawa Y, Nogami A, Hirao K, et al. A brief report on the nationwide survey of catheter ablation in Japan/the Japanese Catheter Ablation Registry (JCAR). J Arrhythm 2012; 28: 122–126

 日本脳卒中協会は、「脳卒中・循環器病対策基本法」の基本理念、World Stroke Day(WSD)と「脳卒中月間」の「Minutes can save lives : 迅速な受診が人生救う! 『大丈夫 ほっときゃ治る』が命取り」に基づき、「脳卒中月間」の啓発を推進し、WSDのキャンペーンを応援します。その一環として、各地のモニュメント・建造物を、シンボルカラーであるインディゴ・ブルーにライトアップします。太陽の塔(大阪府)、青森県観光物産館 アスパム(青森県)、昭和館、史跡足利学校、獨協医科大学病院(栃木県)、臨江閣(群馬県)、山梨県庁別館(山梨県)、世界遺産 韮山反射炉、富士山世界遺産センター、静岡市役所本館ドーム(静岡県)、ジョンソン・エンド・ジョンソン インスティテュート東京(神奈川県)、徳島大学病院、徳島県立中央病院(徳島県)、高松シンボルタワー、県立白鳥病院(香川県)、海峡ゆめタワー(山口県)、熊本大学病院 時計塔・プロムナード(熊本県)のライトアップが決まっています。※会場は予告なく変更になる可能性があります。

各地の詳細はこちら:http://www.jsa-web.org/citizen_event/4800.html

協力:日本脳卒中協会http://www.jsa-web.org/日本不整脈心電学会http://new.jhrs.or.jp/

提供:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社https://www.jnj.co.jp/

(企画制作:朝日新聞社メディアビジネス局)