ガソリン価格の高騰が止まらない。原油取引や為替の影響を大きく受け、ほぼリアルタイムに価格変動につながるという珍しい商品がガソリンだ。資源エネルギー庁によっると2022年2月7日時点でのレギュラーガソリンの全国平均価格はリッターあたり171.2円となっている
そうでなくとも、少しでも安くガソリンを入れたいと思うのが人情だが、ここまでガソリンが高くなっていることで、ガソリンに比べて割安な価格となっている軽油を入れてしまう人も出てきそうだ。
普段から乗り物に乗る人にすると信じ難いことだが、世の中には「軽自動車には軽油を入れるもの」と思っている人がいるという話もあったりする。
軽油と軽自動車、さらにバイクでは「軽二輪」という区分もあり、いずれも「軽」の文字が共通しているのは事実だが、そこには何の関係もない。ご存知のように、軽油というのはディーゼルエンジン用の燃料だ。そのためガソリンエンジンに軽油を入れても走ることができないのだ。
そして、日常的に軽自動車に軽油を入れているユーザーは存在しない、と断言できる。「軽二輪」のユーザーにもいないだろう。なぜなら、ガソリンエンジンの車両に軽油を入れると、大抵は一発で壊れてしまうからだ。
ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの大きな違いはスパークプラグの有無だ。
ガソリンエンジンは燃料と空気を混ぜたものをピストンで圧縮して、そこにスパークプラグで点火することで燃焼させるという仕組みになっている。
一方、ディーゼルエンジンは空気を圧縮したところに燃料を噴いて自然着火させている。物理現象の基本として、空気を圧縮すると温度が上がる。その温度を利用して燃えるような特性を持っているのが軽油という風に捉えることができる。
というわけで、ディーゼルエンジンが使うべき燃料「軽油」をガソリンエンジンに入れるとどうなるのか。自然着火してしまうほどの「燃えやすい」燃料であるから、ノッキングと呼ばれる異常燃焼が起きまくる。
結果として、マフラーから煙を噴き出し、エンジンは止まってしまう。一般的には給油する際にタンク内にガソリンがゼロというはずもないので、多少は残ったガソリンで走行できても、すぐに走行不能となる。冒頭で「日常的に軽自動車や軽二輪に軽油を入れているユーザーは存在しない」と書いたのはそうした理由からだ。
もし、ガソリンエンジンに軽油を入れるといったミスをおかしてしまったら、どんな対策が必要になるのだろうか。
バイクにせよクルマにせよ必要なのは、ガソリンタンクから軽油を抜き取る作業だ。ほとんど走っていなければ、これだけで復活できる。その場合は安価な修理費で済むだろう。
しかし、エンジンが停止するまで走ってしまうと話は変わってくる。
前述したように、ガソリンエンジンに軽油を入れるとノッキングが起きる。最悪のケースとしてピストンやコンロッドといった内部パーツが損傷してしまうと、エンジンを開けてのパーツ交換が必要となる。さらにキャブレターやインジェクターと呼ばれる燃料噴射装置などの洗浄も必要となる。
エンジンの気筒数などにもよるので修理費がいくらとは断言できないが、内容としてはエンジンオーバーホールに近く、バイクにしてもクルマにしても数十万円の高額修理となってもおかしくない。
もっともバイクの場合には、誤って軽油を入れてエンジンが壊れて止まってしまう状態まで走ってしまうことは考えづらい。軽油を入れてしまうと振動が大きくなって、まともに乗っていられないからだ。
ちなみに、セルフスタンドの増加に伴い軽油を入れるミスが増えたというウワサもあるが、筆者としてはこれは眉唾だ。そもそも最初に軽油を選ばなければ、間違ったノズルを刺しても軽油は出てこない。
さらにいえばセルフスタンドでは店員がモニターでチェックしてスイッチを入れないとノズルから燃料が出てこないような仕組みになっている。間違って軽油のノズルを刺したとしても、ノズル内に残っていた滴が落ちてくる程度で給油されてしまうことはない。
クルマの場合は乗用車でもディーゼルエンジンを積んでいるケースもあるので店員が気付かないこともあるだろうが、少なくともバイクで軽油(ディーゼルエンジン)というのは現在日本で一般的に乗られている車種ではまずありえないので、店員が気付いて「間違ってますよ」と指摘するケースがほとんどだろう。
ちなみに、給油ノズルの色は全国共通で、ハイオクが黄色、レギュラーガソリンが赤、そして軽油が緑となっている。また、軽自動車に軽油という勘違いを防ぐために、軽油を「ディーゼル」という表記に換えたり、警告カバーをつけたりしているガソリンスタンドも増えてきた。
ガソリンエンジンの車両に軽油を入れるのは、エンジンを一発で壊してしまうとても危険な行為だ。ウッカリ間違えることのないよう、注意して給油をしよう。
レポート●山本晋也