兵庫訴訟・一審判決後の会見(2021年8月3日・神戸市内)
旧優生保護法をめぐる訴訟で大阪高裁が22日、全国初の賠償を命じた。原告側が「戦後最大の人権侵害」と主張する被害の救済の在り方が改めて問われることになった。旧優生保護法問題「人として生きる」歩み止めず 大阪訴訟の原告である70~80代夫婦は1974年、妻が帝王切開で子を出産した際、知らぬ間に不妊手術を受けた。女性は日本脳炎を患って後遺症で知的障害になり、1965年ごろ不妊手術を強いられた。 「原判決を変更する」。大阪高裁の法廷で裁判長がそう読み上げ、手話通訳が伝えると、男性は一瞬驚いた様子を見せ、顔をほころばせた。弁護士2人が建物から駆けだし、「請求認容」「原判決取り消し」。仙台地裁で一連の訴訟がスタートして約4年。垂れ幕を高々と掲げ、賠償が認められたことを伝えた。 この日の法廷には車いすの支援者らも訪れ、傍聴席の3分の1に当たる30席を取り払ってスペースを確保した。裁判長は判決の骨子をゆっくりと読みあげた。聴覚障がいのある人も内容を理解できるよう手話通訳が配置され、要約された筆記をリアルタイムで映し出すモニターも設けられた。 「長かった。このような判決が得られてうれしい」。聴覚障害がある原告の80代男性は顔を紅潮させ、懸命に手話で伝えた。「私たちの訴訟のような判決が続くよう、一緒に闘っていきたい。被害を受けた人みんなの悔しさ、無念が晴れるように」。不妊手術を受けた70代の妻も手話でメッセージを発した。 男性はマスク越しでも笑顔が伝わる。「国は上告しないでほしい」と求めた。妻は「私たちは耳が聞こえない夫婦だったが、子どもを産み、育てたかった」「どんな人でも、同じように子どもが産めるような社会になってほしい」と求めた。 原告弁護団の辻川圭乃弁護士は「人権擁護の最後の砦(とりで)として、司法府の役割を果たした。裁判官が思いをくんでくれた」と話した。・・・・・・・・・・ 神戸、大阪、東京、仙台など全国9地裁・支部に起こされた一連の訴訟で、旧優生保護法の違憲性と国の賠償責任をいずれも認め、原告側が勝訴したのは初めて。一審判決はいずれも賠償請求を退けて原告側が敗訴している(4件の違憲判断)。 3月11日には東京高裁で控訴審判決が言い渡される。 「本当に良かった。被害者に寄り添う判断だ」。一連の訴訟で2018年1月に初めて提訴に踏み切った宮城県の60代の原告の女性を支える義理の姉は、興奮した様子で語った。「被害者・家族の会」共同代表を務める東京都に住む70代の原告の男性は「人生をめちゃめちゃにされた。お金の問題ではない。これを機に、国は被害者全員の目の前で頭を下げて謝ってほしい」と願う。 後藤茂之厚生労働大臣は22日、「主張が認められず、国にとって大変厳しい判決だと受け止めている。判決の内容を精査し、関係省庁と協議した上で適切に対応したい」と述べた。■「勝訴判決を勝ち取るべく、全力尽くす」兵庫訴訟弁護団が声明 神戸地裁では聴覚障害者の夫婦2組と先天性脳性まひのある女性の計5人が国に計5500万円の損害賠償を求めたが(兵庫訴訟 このうち男性1人が係争中に死亡)、2021年8月に敗訴、大阪高裁に控訴している。 このうち聴覚障害を持つ男性(明石市在住・90代)は「国に対して、裁判所は正義と公平をもって、しっかりと判断を下した。社会から差別をなくすために、まだまだ頑張っていきたい」とコメントした。また女性(神戸市在住・60代)は、「まずは『勝った』ことが、大きな前進で嬉しい。しかし、この判決で終わりではなく、裁判所に主張すべきことを最後まで伝え切りたい」と話し、3月の東京高裁の判決にも期待を寄せた。 兵庫訴訟弁護団は22日、「裁判所が、除斥期間の適用によって国の責任を免除することを不正義とする極めて妥当な判断を行い、被害者に対する国の責任を認めたことを歓迎する。そして、国に対し上告することなく、この判決を確定させることを強く求める」との声明を出した。 そして「この判決によって、国の責任として、長年にわたり、強制不妊手術や旧優生保護法による偏見差別の被害に苦しめられてきた原告や被害者に対し、一刻も早く謝罪と被害に見合った賠償を行うとともに、優生思想や障がい者に対する偏見差別などの問題の全面解決に向け、ただちに全国の原告および弁護団との協議を開始すべき」とした。
ラジオ関西